Archive for August 2010

17 August

「たかが意見書、されど意見書」(日刊新民報に寄稿)

 地方自治法第99条に「普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の公益に関する事件につき意見書を国会又は関係行政庁に提出することができる。」という規定があります。この規定に基づき、所沢市議会の6月定例会においても計3本の意見書が議員提出議案として全会一致で採択されました。このうち「RSD(CRPS)の難病指定を求める意見書」に私も深く関わることができましたので、その内容や経緯等について少しお話させていただきたいと思います。

 本年4月、ご家族の難しい病気で大変ご苦労されている方(仮に「Aさん」といたします)が地域にいらっしゃるとお聞きし、お宅を訪ねました。お話を伺うと、「市外に住んでいる息子が一昨年、突然足に激痛が走り、歩行困難になったところ、病院での検査の結果、RSD(反射性交感神経性ジストロフィー)と診断されました。RSDとは、末梢神経の損傷後に慢性の疼痛が生じ、皮膚温低下、血管運動障害、筋委縮等を発症する病気で、現在のところ、原因や治療法が確立されておらず、長時間の治療、療養と多額の治療費が必要となり、家族の大きな負担になっています。そこで、家族や関係者が中心となって厚生労働省に難病指定を求めるための署名活動などを行っています」とのことでした。3月定例会において公明党さんから提案された混合型血管奇形の難病指定を求める意見書が採択されたことも頭にあり、市議会としても国に対して意見書を提出するという手段があることをご説明し、微力ながら活動に協力させていただくことになりました。

 意見書の原案を作成するにあたり、現状を正しく認識するため、医師でもある古川俊治参議院議員の政策担当秘書の方に調査を依頼し、厚生労働省の現状についてご教示いただきました。その内容は、「RSDがこれまで特定疾患対策懇談会など公式の場において取り上げられたことはなく、難病に指定されていない理由について、書面での回答はできない。現在省内では難病のあり方の見直しを行う予定で、作業チームを立ち上げている状況である。ただし、作業チームでは難病のあり方全体について話し合うが、個々の疾病についての検討は行われない予定」というものでした。議論の俎上に載せてもらうまでがなかなか大変だということがよく分かりましたが、出来ることはしっかりやっていくしかありません。町田市にある署名活動等の取りまとめを行っている団体の事務局のSさんからもご指導いただき、意見書(案)を仕上げました。

 長い間署名活動や厚生労働省に対する要請に関わっているSさんのお話は、役人との向き合い方という意味でも勉強になりました。同じ役所でも担当者によって対応に少なからず違いがあり、難病指定のための活動を行っている団体の中でも真面目に取り組んでいる団体の方がより真剣に話を聞いてもらえる可能性が高いということはやはりあるようです。余談になりますが、RSDは交通事故、外科手術、採血あるいは点滴などにおける微細な損傷等によって誰にでも発症する可能性があるため、採血も利き腕ではない方で行った方がよいというアドバイスまでいただきました。

 意見書は市議会としての機関意思であるため、議会運営委員会で全会一致となった場合のみ採択されるという運用が行われています。当事者としての声を直接聴いてほしいというご希望があり、委員長のご配慮で協議前にAさんからこれまでの経緯や現状について説明する時間をとっていただきました。議会のような場で発言されるのは初めての経験ということで、緊張されていたAさんでしたが、ご子息のことを心配される思いが本当にストレートに伝わってきて、心を打たれました。全会一致を目指すためには文言の修正や削除といったある種の妥協が必要となることもままあることですが、この意見書に関しては逆に内容をさらに充実させるようなご意見を他会派の委員の方々からいただきました。

 同趣旨の意見書が自治体議会で採択されたのは合併前の旧久喜市に次いでまだ2例目ということもあり、難病指定までの道のりはまだまだ遠いものかもしれません。それでも、肉体的精神的そして経済的にも困難な日常生活を強いられている患者さんたちはいつまで我慢すればよいのか先行きが見えない中、所沢市議会の意見書によって勇気づけられたという感謝の言葉がSさんから届きました。私としてもこのように喜んでくださる方がいるということで充実感を味わうことができましたし、折しも難病に侵されたわが子を救う治療薬の開発のために製薬会社を設立してしまったビジネスマンを描いた映画『小さな命が呼ぶとき』が上映されていますが、今回の件は家族、親子の愛情の深さ、尊さについて改めて考えさせられる機会にもなりました。

 このように貴重な機会を与えてくださったAさん、古川先生をはじめご指導いただいた全ての皆様、そしてご賛同・ご協力いただいた議員各位にこの場をお借りして、改めて感謝申し上げます。ありがたいことに議会基本条例に関する視察の対応をさせていただくことで、他自治体の議員の方々と知り合う機会も増えましたので、今後はRSDの難病指定を求める意見書が少しずつでも全国各地に広がるよう引き続き粘り強く取り組んでいきたいと考えているところです。

23:59:00 | oginoyasuo | |